先日、後見制度支援信託に関する成年後見人としての業務が終了しました。
後見制度支援信託とは、後見制度による支援を受ける本人財産のうち、
本人の入所施設利用料、介護保険料や公共料金など毎月の支払を要するのに
必要十分な金銭を預貯金として後見人に管理させる一方、
それ以外の金銭を信託銀行等に入れてしまう仕組みのことです。
後見制度支援信託では、あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書という書面がないと、
後見人は、信託銀行等に入れている金銭を引き出したり、
信託契約を解約することはできません。
その結果、後見制度支援信託は、後見人による多額の本人財産使い込み等、
後見人の不正を防止する有力な手段として、近年利用件数が増加しています。
先日、私が行った成年後見業務も、
①もともと成年後見人(本人親族)が管理保管していた預貯金を私が一旦預かり、
②毎月の支払に必要な預貯金以外は本人名義の口座の解約を進め、
③後見制度支援信託の仕組みを作った後に、
④私が成年後見人を辞任し、成年後見人(本人親族)に再び預貯金や信託財産の
管理をしてもらうことを目的とするものでした。
後見制度支援信託は近年取扱件数が増加しているものの、後見制度全体から
みればまだまだ利用実績が少なく、金融機関の理解度もまちまちです。
そのため、後見制度支援信託の仕組みを作る過程で様々な不便を感じました。
例えば、某都市銀行で本人名義の預金口座の解約をしようとした際にも、
担当者から、「もう一人の後見人である、〇〇さんの委任状か同意書がないと口座解約に
応じられません。」とトンチンカンなことを言われてしまいました。
当然、私は、担当者の上司を呼び出し、
私が後見制度支援信託の仕組みを作るために業務を行っていること、
私が成年後見人として記載されている登記事項証明書を見せたうえで、
「登記を見ても、私に代理権の制限が付けられているわけではないのだから、
〇〇さんの委任状や同意書なんかいりませんよ。私一人で口座解約は出来ますよ。
実際、〇〇さんからご本人の預貯金すべて私が預かっていますよ。」と言うと、
それでも上司は食い下がらず、
「本店に確認します。」と言って引っ込んでしまいました。
上司は再び戻ってきた後、私に対し、
「高橋先生がご本人の預貯金すべてを預かっている証拠を見せて下さい。」と
言ってきました。
上司の申し出を拒否しても良かったのですが、
すでにこの時点で30分以上が経過しており、今後の予定にも響くので、
私が〇〇さんから預かった本人財産一覧が記載されている受領証のコピーを示すと、
ようやく上司も納得しました。
結局、口座解約手続完了までに1時間30分以上もかかってしまいました。
私が帰り際に担当者に対し、「✕✕銀行は成年後見制度に最も理解があるところだと
思っていましたが、ずいぶん手続に時間がかかりましたよね。」と皮肉を言うと、
その担当者は、
「成年後見については手続をどうしても慎重にやらなければいけませんので・・・。」と堂々と言っていましたが、
単に担当者や上司の方が、成年後見制度や後見制度支援信託に対する無理解なだけだと思っています。
今回、後見制度支援信託の仕組みを作る過程で、
数社の金融機関や市役所等の行政機関とやりとりをしましたが、
そのすべてについて後見制度支援信託の制度説明や、
すでに後見人に就いている〇〇さんとの関係の説明をした(させされた)記憶が
あります。
今後、後見制度支援信託の利用件数はますます増えていくでしょうが、
後見制度支援信託をより使いやすいもの、より良いものにしていくためには、
制度を利用する側として我々専門職後見人が理解していることは当然ですが、
金融機関や役所など本人の財産関係と関わりを有する機関についても、
後見制度支援信託に関する十分な理解が求められるでしょう。
弁護士 高橋 裕